代表あいさつ

 小さいとき、自分の家が農家だということをなんとなく恥ずかしく思っていました。JICA海外協力隊としてパナマの農村に赴き、その気持ちが180度変わりました。パナマの農村の人たちは、当時の私のモノサシでは「貧困」と言える生活を送っていましたが、その中で私が知らなかった「豊かさ」を持って生きていました。帰国した私の中に働き者の祖父が蘇りました。パナマで伝えたくても私の知識が乏しく、伝えられなかったこと、祖父や先人たちが地道に培ってきた日本の農業の「発展・改善のプロセス」こそ、誇りを持って海外に伝えられる「日本の経験」だと思いました。しかし日本の農村を支えてきた人々が高齢化し、社会開発理念や実践事例など、その英知は充分に伝授されないまま消えて行こうとしていました。

故郷群馬県で活動地を探し求め、唯一受け入れてくれた群馬県甘楽郡甘楽町には、この日本の農業の誇りと技術を教えることのできる農家の人たちがいました。それを支えるJAや地域の方々がいました。現在では「甘楽富岡農村大学校」という80人近くの地元農業関係者が在籍する組織ができました。海外から来た研修員も、これから海外に赴く日本の若者も「甘楽富岡農村大学校」の地元農家の先生から学びます。巣立った研修員は、国内外30カ国に1,200人おり、そのネットワークから世界の情報が入ってきます。さらに、甘楽富岡地域には、都会から農業を学びにくる学生、就農や起業を考える人、自然の中での遊びや農業体験にくる子どもや家族、さまざまな人たちが訪れるようになりました。

今日、農と食への意識だけでなく、ビジネススタイルや人生観など、今まで当たり前のこととして考えられていた思想や社会全体の価値観などに劇的に変化が訪れています。自然塾寺子屋は、社会が直面している課題や可能性を認識したら、リスクをすすんで受け入れ、リーダーシップをもって行動を起こします。そして、世界の農業や農村のさまざまな在り方をグローバルな視点で情報交流できるプラットフォームとして、生命網の安定性と全体性と美を守り修復するために、自然も人間も活かされる豊かな農村文化を、未来へ、そして、世界へ伝えることを使命と考え、「人」を育てることで、世界と日本の農村を、ここ甘楽富岡の郷から元気にしていきたいと活動していきます。

自然塾寺子屋 理事長 矢島 亮一